月刊ガソリン・スタンド 掲載 2014.09

掲載紙
月刊ガソリンスタンド
掲載日
2014年9月

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人材キャリアのプロが提唱する人材不足解消法

人員不足をバネに、愛される店舗経営を目指す

最も人集めに苦しい時代の到来

大手のアルバイト囲い込みが始まった!

募集記事を掲載しても反応がない。このような状況を誰もが実感していることでしょう。「時給を100円上げて求人したのに・・」と、先日とある特約店の幹部は残念そうに話していました。
この背景にあるのは根深い社会構造上の問題です。若年者数の人口減少。団塊世代の纏まった現役引退。さらには、就職難でも石油販売業界には就職はしたくないという若者の3Kを嫌う価値観かもしれません。この現象は国内の石油業界だけにとどまらず、各産業界においても深刻な事態となっています。
他業種に目を向けてみましょう。まず、第一次産業となる農業、林業、漁業、鉱業のいずれもで、従来にも増して人材不足は深刻のようです。また、第二次産業の代表格、自動車業界でも万全な生産体制の裏側で整備士不足は深刻です。次に、第三次産業でも深刻さは変りません。
航空業界ではパイロット不足が社会問題となっており、IT業界でも技術者が、2015年には20万人規模で不足するとの調査結果もあります。それらの現実を踏まえて、大手企業が一斉に既存アルバイトを社員化する荒業に打って出ました。
衣料品販売大手ユニクロは自社のアルバイト1万7000人を地域社員化すると発表し、スターバックスコーヒージャパンも契約社員800人を正社員化することに。他にも大手企業が続々とアルバイトを社員へ転換するかつてない異常事態は、SS業界で最も人集めの苦しい時代の到来と思って間違いはなさそうです。

労務管理教育が急務

現在、SS現場で起きているのは、勤務シフトが回らない逼迫した労務状態です。アルバイトが勤務するはずのシフトに正社員が勤務する事例が日常茶飯事で起こっています。このような状態が長期間続くと、人為ミスにより事故やトラブルが発生します。その結果、不規則な長時間勤務やトラブルの解決に翻弄された社員の退職という顛末も少なくありません。
続いて多いのが違法体制での運営です。その多くは、従業員の労働過多による労働基準法違反。次に、保安監督者不在による消防法違反です。とくに、消防法の義務違反は罰則も厳しく、万一火災事故に出も発展すれば社会問題にもなりかねません。当然、給油取扱所としての営業許可にも影響を与えかねないため、日頃から無理をさせない労務教育が必要でしょう。
実際のところ、店舗管理者は人員不足下での労務管理に慣れていません。これらの事態に向き合う思考法と解決方法を、労務管理視点も踏まえて関係者に教育する事が業界の急務だと思います。

私たちにできることがあります

人材流出が業界最大の損失

私たち業界人ができることは2つあります。一つは、ベテラン人材を流出させないことです。もう一つは、新たな層の人材を登用して運営していくことです。
読者の皆さまのことです。「人材対策ならすでに実施しているよ!」とお答えの方も多い事でしょう。石油販売業と言えば130余年の歴史を持つ由緒ある業界で、これまでの経験を経営の知恵として内在させている会社も多いと思います。
一つ目のベテランの流出抑制については、多くの歴史ある会社に内在する知恵を結集して、対策の枠組みを作ることが急務です。私の経験では、業界就業10年以上の人材が退職をすると、他業種に転職し再びSS業界に戻る事は稀だからです。
ここで重要なことは、日本のSS人材は世界的にみても貴重な存在であるとの認識です。というのも、諸外国のガソリンスタンドは主にセルフサービス方式で、立地や設備だよりです。そのために、経営者がサービスの質を高めようとする姿勢は日本ほど高くはありません。
他方、日本は商人の国。社歴100年を超える石油販売会社の多くは、もともと地域の名士や商人です。商才を認められ、当時の政府から地域の石油配給を任されて創業した会社も多く、地道な商売の結果として、世界的にも類稀なフルサービス方式の石油販売業が存続したのでしょう。その商才のDNAが経営者は当然のことながらベテランスタッフにも内在しているとの認識を持つ事が肝要です。
私たちスペックでは、経年評価という制度を創業時から報酬に組み込んでいます。従業員は役職による給与と賞与が基本ですが、決算時に儲かった利益はこの経年評価指標を用いて還元しています。決算賞与だけは会社の在籍期間が評価される仕組みで、今年入社した課長よりも、12年在籍するアルバイトの方が多くなるわけです。
また、一度退職した従業員の出戻りを可能にする事も効果があります。私の経験では、出戻り従業員が全従業員の1割を占めれば、退職する従業員を慰留する効果を組織が持つようになります。貴重なDNAを継承してゆくためにも、独自の仕組みを取り入れて人材流出の抑制を進めていきましょう。

新たな層を登用する

2つ目の、新たな層の積極登用については、労働力という視点で年々増えてゆく層の人材に運営を担ってもらう取り組みを進めるべき点です。社会構造の変化を味方にするために私が考える新たな層とは、①外国人・②障がい者・③縁故人材です。
①外国人労働者は、日本の労働力を維持する為にも今後増えていくと思います。但し、言葉や就労ビザなどの制約もあり、専門家の指示のもと進める事をお勧めします。
②障がいを持つ人材については広く登用dけいると思います。多くの地域で障がいを持つ人材が労働力として眠っています。お勧めの人材層です。
②縁故人材についても復活すべきでしょう。求人媒体の発達により縁故採用が影を潜めていましたが、人材不足の今こそ血族親類などご縁のある人材を積極登用してみましょう。

~~参考事例~~

SS業界でもできるはず

例えば、SS業界でも障がいを持つスタッフがセルフ店の給油管理業務を担うことは可能だと思います。既存の店舗では設備改修が必要となりますが、新設店であれば障がい者の就業を想定して設計でき費用も抑えられると思います。
また、障がい者雇用を積極活用する経営の舵を今切ってゆけば、一般採用が困難を極める中で、安定した労働力確保の未来が拓けるかもしれません。また、彼らの自立支援の役割をも担う公器の店舗として地元で認知されていくでしょう、その結果は言わずもがな。地元でご愛顧される愛情満タンのお店になっていることは疑う余地もありません。
ここに、障がい者を理解する研修ツールを紹介します。映画「天から見れば」はスペックが配給するドキュメンタリーで、2012年にニューヨークの国連本部で招致上映された作品です。幼少の頃に両腕を事故で無くした少年が口筆画家として自立してゆく半生を描いたこの作品は、これまで多くの企業や団体が研修としてご覧になられました。この映画に限らず、まずは障がい者を理解する事から始めてみるのがいいように思います。

これまでのお客様とこれからも

社会構造から読み解く未来の隣接事業

ガソリンスタンドの未来は、地元の人々と社会の流れを味方にして創り上げていく共同事業だと思います。燃料供給は減りはすれどもなくなりはしません。2本目の井戸となる新たな隣接事業を創り上げる事が、未来のリーダーに求められる使命なのでしょう。
スペックでは、ガソリンスタンドに相性のいい事業として、相続相談を店舗で担えないかと資格協会と動き出しています。社会構造から、向こう20年は大相続時代がやってきます。
これまで来店されたお客様に、引退後は自身の相続相談として来ていただく。従業員がタイヤのアドバイザー資格を取得して用途に応じたタイヤを提案するように、相続のアドバイザー資格を取得してお客様の相続をサポートすることも不可能ではありません。
相続対策については一般に認識されてはいません。多くの場合、遺言書を作成して足りない不足金を生命保険で補うというのが賢い対策のようです。幸い、SS従業員は保険に基礎知識があります。お客様に賢い相続をしていただくために、遺言書の作成を取次いだり保険商品を提案できる店舗になれれば、安定した手数料収入とともに、お客様や親族の方々とも新たな関係が構築できることでしょう。

新たな仲間にワクワクする

どこの国の出身で、どのようなよい文化があるのか、また障がいはあれども、どの分野が得意なのかなど、まずは新たな仲間に関心を持つ事が大切だと思います。そして縁故で加わってくる仲間にもエールを贈る姿勢で接してみましょう。
ちょっとやそっとでは退職して離れられない縁故の繋がり。核家族化が進み、勝手気ままな育ち方をした我々世代が大切にしないといけないのは、ご縁を大切にする謙虚さと感謝の気持ちかもしれません。
いずれにせよ、これまでは関わることの少なかった層の人たちに関心を持つこと。そして出会いに感謝することです。まるで海外旅行に行くようなワクワク感で仲間を迎え入れましょう。そして、その人たちの世界に触れさせてもらいましょう。
読者の皆さまには、100年先も地元でエネルギーの安定供給を続けながら、時代が求めるであろう事業を展開していて欲しいと思います。変わりゆく社会構造を味方にして、地元の人たちに愛されるコミュニティーの中心的存在となっていることを願ってやみません。